ぽっくり。
夏用の靴の確認の為下駄箱を整理していた。
棚の片隅に白い柔らかな紙に包まれている物があった。
「ん?何だろう。」
と、記憶にない包みを開けてみた。
「うわ~、私の七五三の時履いたぽっくりだ~!」
2歳年上の姉の7歳の七五三に合わせて一度に私のお祝いもしてくれたのだろう。
兄弟、姉妹の歳が近いと一緒に祝うということはよくある。
だから、私が5歳の時、着物を着て、このぽっくりを履いて記念写真を撮って、
お祝いを下さった親戚へお礼回りをしたことはよく覚えている。
勿論記念写真も保存してある。
私は・・・、あの時5歳だったんだ。
ぽっくりの側面には飾りの彫刻が施されている。
七五三の行事が済んだ後も、このぽっくりが大好きで大切にしてきた。
履いた時より数えてウン十年、半世紀はとうに過ぎて、その上にウン十年を重ねた
年月が経っている。
実家の引っ越しが2度、私の結婚から引っ越しが3度あった。
その度に大事に、失うことなく手元に収納して、また見易い場所に置いていたのだ。
自分のこのぽっくりに対する気持ちがここまで手離すことなく一緒に人生を
歩んでくれたんだと感慨深い。
当時は私の周りの子供達がみんなこういうお祝いをしてもらったとは思えない。
母の執念だったのかもしれない。
それに、母の嫁ぎ先はごくごく普通の家庭なのだ。
当時の母はまだ30歳前だった筈で、二人の娘に精一杯の晴れ着を着せて
祝ってくれたのだ。
お正月には女の子らしい可愛い着物を着せてもらったし、夏には簡単服という手作りの
ワンピースをよく着せてもらった。
母の実家に帰る時も流行のお洒落をさせてくれた。
女の子としては着る物に対する意識をすることを教えてくれたのだと思う。
誰かを羨ましいとか、あんなものが欲しいとか思うことなく、いつも十分
満足した気持ちで子供時代を過ごすことができた。
そんな時代の私の”象徴”がこのぽっくりだったように思う。
それだけではないが、大切にされた思いは何事に向き合った時も
”自己肯定感”が自分を支えてくれていたように思う。
姉と妹の七五三の晴れ着の足元まで、今でも手離せない程の本物の一品
で揃えてくれた母の審美眼に、改めて敬意を払いたい。
過ぎ去って行く時間をしっかりと留めてくれたあの日に感謝の気持ちで一杯です。
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